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いれてくれ! [ウルトラ]

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 さて、以前書いた冬木透先生のコンサートに関する記事に続いて、今回は伊福部昭先生である。
 ぶっちゃけ、ここ最近の出来事をネタにしてブログ記事を書く余裕が時間的にも精神的にも無いので(別の趣味で忙しいもんで…)、お蔵出し記事である。
 
 今回のキーとなるCDは、これ。

081112cd.jpg

『伊福部昭の芸術4 宙ー伊福部昭SF交響ファンタジー』。

 1995年の夏の終わり、日本フィルハーモニー交響楽団の事務局から連絡があった。「今日、杉並区(東京都)の“セシオン杉並ホール”にゴジラが来ますよ」
 この時、私は写真を撮ったりインタビューをしたり記事を書いたり…という仕事をしていたのだが、その前に関わっていた仕事で日本フィルの方とはそれなりに懇意になっていた。で、常々「何かネタがあったら下さい」とお伝えしておいたのだ。

 事務局の方は「今、伊福部先生のCDを録音してるんです。それで解説書用の写真を撮るために東宝からゴジラが来ることになったんです」と…。それ以上の詳細は確認せず、私はネタ帳とカメラを持ってホールにすっ飛んで行った。

 
 私がホールに着くと録音は既に終わっていた(ちっ! 生演奏を聴きたかったぜ!)。が、ステージにはゴジラの登場を楽しみにして残っている楽団の皆さん、それに何と伊福部先生ご本人がいらっしゃるではないか!

 考えてみればそりゃそうだ。このCDはあくまで『伊福部昭の芸術』の中の1枚であって、怪獣映画の音楽集ではない。ゴジラ単体で解説書に写真が出るはずもなく、伊福部先生とツーショットに決まっている。
 これは凄いことになった…。


 ステージマネージャーのKさんに「ゴジラは…?」と訊ねると、「あそこ」と舞台下手を指差す。
 いた。いたのだが…。
 …と、その前に、イキナリだがそのCD掲載された写真というのはこれ↓である。

081112book.jpg

 この写真だとわかりにくいが、後ろに写っている楽団の皆さんがえらく楽しそうなのだ。
 もちろん、ゴジラと伊福部先生のツーショットを楽しんでいらっしゃったわけだが、実はそれだけではない。


 さて、舞台下手のゴジラ君。

 でれ~~~~~~っ

 横たわった状態でそこに置かれていた。

 「中に入る方はまだいらっしゃらないんですか?」…まさか、薩摩剣八郎さんご本人とか…? とワクワクしながら訊くと、「その…東宝さんから借りたのはいいんだけど…中に入る人がいないんだよ。あと1時間くらいでカメラマンが来ちゃうんだけどさ…」
 「あの…」
 「ん?」
 「僕が入ってもいいですか?」

 うわ、言っちまったぜ、俺!

 「いいけど…重いよ」と、お世辞にも立派な体格とは言えない私の体をしげしげと眺めるKさん。
 「大丈夫です! ウルトラセブンにも入ったことがありますし」(って、重さが違うだろ…)
 「何だか嬉しそうだねえ」
 「ええ、いや、まあ、はい」…どうも、喜びを隠せなかったらしい。

 …って、取材に行ったんじゃなかったのか、俺は?! 記事は何とかなるにしても、写真はどうするんだ?
「あ、写真なら私が撮りますよ」と、もう一人のステージマネージャーのTさんが名乗り出てくださった。記憶が曖昧だが、趣味で写真を撮っている方だったような気がする。 

 これで問題は解決。

 洋服を着たまま入るわけにもいかないし下着というのもアレなので、私は自転車を借りて商店街に行ってTシャツと短パンを購入(もちろん、自腹)。

 さらに呉服屋さんに寄って日本手拭いも確保…着替えの“締め”に手拭いを頭に巻くと「ふふっ、やる気満々だねえ」とKさんに笑われたが、やっぱり手拭いが無いと気分が出ないですからね。


 「正しいゴジラへの入り方」なんてことを知っている人はその場にいない。本物の撮影現場だと、確か吊るしてある状態で中に入るんじゃなかったっけか? が、このゴジラは、寝ている。
 アトラク用なので撮影用よりは相当軽く作られているのではないかと思うのだが、それでもそこそこは重かったように記憶している。

 とにかく、どう考えてもこのホールにいる人間の中で一番詳しいのは私ということになる。しかも、自ら志願している身である。
 メフィラス星人に入った時のことを思い出して「えっとですね…まず、寝かせた状態で足を入れます。そうしたら起き上がるのを手伝って下さい。それから手と頭を入れますので、全部入ったらチャック(マジックテープだったかも…)をしめて…」と、さも知っているかのようにお手伝いのお願いをする私。

 何とか無事にゴジラになった。
 う、嬉しい。

 実は、少しだけ閉所恐怖症の気がある。さらにド近眼がメガネを外しているので、外の状態なんかほとんどわからない。
 しかし、ゴジラである。不安はぶっ飛ぶ。

 手を引かれてステージへと出る。楽団員の皆さんから拍手が起きる。コンサートなら私が彼らに拍手を送る立場なのに、今は彼らが拍手をしてくれている。これもなかなかの気分。声こそ出さなかったが(いや、出したかもしれない)、咆哮のポーズをとってみたりしながらゴジラっぽく「ズシ~ン、ズシ~ン」というイメージで舞台中央に向かい、伊福部先生と合流!

 単なるファンである私が、ゴジラとして伊福部先生と並ぶのである。
 う、嬉しい。
 感激のあまりゴジラの中で泣いていた…という記憶は無く、ひたすら嬉しかったという印象である。


 解説書の写真を撮影するカメラマンから「二人で並んで下さい」と指示が出て、何枚か撮影。続いてこのカメラマン氏、何を思ったのか「ゴジラさん、今度は指揮台に上がって棒(指揮棒)を振ってください」 な、なにをぉぉぉ~~~っ?! いや、面白い、やりますとも。

 指揮台に上がろうとする私に、伊福部先生は「足下に気をつけて…」と声をかけて下さった。お人柄を感じる。

 ゴジラスーツのあの手で指揮棒を持つのはけっこう大変ではあった。何とか握って楽団の皆さんの方に体を向ける。
 私は指揮台にいる。目の前でこちらを見ているのは、本物のオーケストラのプレイヤーである。
 う、嬉しい。

 ここまで嬉しいと、調子に乗るしかない(そうかあ?)。

 私は指揮棒で譜面台を「パンパン!」と叩き、譜面をめくるパントマイムをしながら指揮棒を上げる。

 …ウケた!
 う、嬉しい。

 そんな私の腕を伊福部先生がガッシと掴み、「こんな感じで振るといいよ」と指導して下さった。
 適当にリズムをとると、そこはノリの良い日フィルのメンバー。しっかり♪ドシラ、ドシラ、ドシラ、ドシラソラシドシラ…と、ゴジラのテーマを演奏してくれる方も何人かいた。

 う、嬉しい。嬉しすぎる。
 「ゴジラの姿で伊福部先生から指揮法を学び本物のオーケストラの指揮をした」という経験を持つ人が他にいたら手を上げてほしい。かなり針小棒大な表現だが、間違ってはいないでしょ?


 くどいようだが、ノリの良い日フィルのメンバーである。
 今度は「自分の楽器を持って写真を撮ってくれ!」という方も…。さすがに弦楽器は触らせてもらえなかったが(逆に私も怖くて触れなかったであろうが…ン百万円、ン千万円もするデリケートな楽器であるからして)、ティンパニを叩く姿とかファゴットを持つ姿を撮られたはずである。
 このあたりが、解説書の写真の背後でプレイヤーの皆さんが楽しそうだった要因であろうと思う。


 もっとも、上掲写真のように、解説書に採用されたのはフツーのツーショットであったが…。

 
 ゴジラから脱皮していると、伊福部先生が「ご苦労様」とまた声をかけて下さった。
 さらに、「今度の映画(『ゴジラvsデストロイア』同年12月公開)も、あなたが入ってるのかい?」と(笑) 違います。


 その二~三日後、同僚が「新聞にゴジラが出てますよ!」と教えてくれた。見ると朝日新聞の文化面で、確かにゴジラのカラー写真が載っている…どこぞのコンサートホールで、伊福部先生と並んだゴジラが…。

081112asahi.jpg

 もう一度…。
 「ゴジラの姿で伊福部先生から指揮法を学び本物のオーケストラの指揮をして、その時の写真がCDの解説書と新聞に載った」という経験を持つ人が他にいたら手を上げてほしい。


 えっと…。
 結局、この様子を記事にしたのかどうか、すっかり忘れている。
 とにかく、ステージマネージャーのTさんが撮って下さった写真を現像&紙焼きして、その1枚を日フィルの事務局に託して伊福部先生からサインを頂いた。

081112sign.jpg

 日付を見ると、1997年…この感激のステージ(?)から2年後。よく待ってたな、オレ。ってか、よく日フィルの方も覚えてくれていたものだなあと感謝している。

 とにもかくにもこの日以来、日フィルの何割かのメンバーからは私が“東宝の役者である”と勘違いされ、他の何割かのメンバーからは私が“特撮ヲタクである”と勘違いされるようになってしまったらしい。
 愛車で日フィルの事務局を訪ねたときのこと、企画担当の女性から「へェ〜、studio7さんって、フォルクスワーゲンに乗ってるんですか」と妙な感心のされ方をした。その後、ポソッと「フォルクスワーゲンに乗ったヲタク…」
 つぶやくなよっ!

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コメント 14

オビコ

 イベント用に作られたとはいえ、表皮はライブのゴジラと同じパターンですからゴジラです。

 強いて云えば、腕を折り曲げ上肢を前に出しておれば、宜しいかと思います。アトラクゴジラもよく観ておりますが、あんなに歯が新庄剛志だったとは・・・
by オビコ (2008-12-20 16:58) 

ケイパパ

直接お話を伺っていて、あまりの面白さとありえない設定で笑うよりも「いいのか?」って思いの方が後半強くなったのを覚えています(笑)

それにしてもアクター経験って、滅多な事ではできないと思いますが、まさしく趣味と実益を兼ねたとはこのことで、見事にすごい体験をしてきているんだな~と感心しきりです。

そんなフィルの公演は早く聞きた~い。
by ケイパパ (2008-12-21 01:27) 

studio7

>オビコ様

 既に遠い記憶となっていますが、この時は「ゴジラに入ったこと」と「伊福部先生と直接お会いできたこと」というダブルの感激が同時にあったもので、まともに“ゴジラを演じる”ことが出来なかったように思います。
 これと前後して屋外アトラク用(それはかなり傷んでました)にも入りましたが、そのときは頑張って「ゴジラ構え」と「ゴジラ歩き」を心がけました。

 自分が考えている以上に大きい動きをしないと、ゴジラの動きに反映されないんですよね…。わざとらしくなく、それでいて大きな動きをせねばならず、プロのアクターさんの凄さを思い知りました。

by studio7 (2008-12-21 12:24) 

studio7

>ケイパパ様

 これは「仕事」ですっっっ! 取材に行ったのに取材対象が床に転がっているだけでは話にならないので、やむを得ず自ら(以下、言い訳1000文字省略)。

 この経験によって、私はすっかり日本フィルのファンとなりましたが、基本的に伊福部昭先生、宮川泰先生、三木稔先生(伊福部先生の教え子です)が絡まないコンサートには行ったことがありません。

by studio7 (2008-12-21 12:34) 

みぃ パパ

 世界で一人です!こんな素敵な体験をされた方は!
 普通ならTVの「あなたの夢かなえます」みたいな企画で、運良くあたった方が奇跡的に体験できる・・・

 もしその場でゴジラにならなかったら、代わりの方はきたのでしょうか?どうなっていたのでしょうか?
 そして新聞などゴジラとのツーショットを見ている方は「誰も知らない」
 studio7様が入ってるなんて。

 ノリのいいフィル!ゴジラのテーマなどこの辺も流石プロを思わせます。

 指揮の指導なんて数ある指揮者を志すものでさえ、直接ご指導されたことなんてない方が多いはず。

 ゴジラマニア・フィルマニア・指揮マニア(すみませんマニアは不適切と思いますが)それぞれが味わいたいものを一度に一人で!

 こうなると益々、studio7様って「ワーゲンに乗った・・何者?」って呟いちゃいますよ!
by みぃ パパ (2008-12-22 14:06) 

マック&シュンカナ

うんうん、六本木の天空博覧会のあとに聞いた話ですね。
そう遠くないかこの話ですよね??
こんな体験できる人はそうそういないと思います。
というか、今だとあまりレンタルできないかも・・・

私でも多分入ったと思います(笑)
by マック&シュンカナ (2008-12-22 18:14) 

清水

そうそう、このお話はstudio7さんにパースくんと一緒に初めてお会いしたときにお聞きしたんですよね!一生に一度あるかないかの経験ですね。いや、普通はないでしょう(笑)私も機会があったら、ウルトラ戦士や怪獣になりたいです!
それにしてもここ一年ほどですごい経験をしている、もしくはグッズコレクターのウルトラなお友達が急速に増えました(笑)
by 清水 (2008-12-22 21:58) 

初代ウルトラおやじ

なんとか当たって行かして頂きます。
オーケストラウルトラ興味あります。
がCDほったらかしです(ーー;)
by 初代ウルトラおやじ (2008-12-22 23:18) 

studio7

>みぃ パパ様

 おっしゃるように、まさに奇跡でした。
 ゴジラスーツを借りたのは多分レコード会社サイドだと思うんですが、どうも「中身」までは考えていなかったらしいです。

 特撮が好きだということを周囲に隠していなかったのも良かったのかもしれません。…「そういうヤツ」と見られることに慣れてしまっていたもんで、敢えて隠す必要性を感じていなかっただけなんですが(^^;

 ゴジラにしてもオーケストラにしても伊福部先生にしても、私なんか単に好きなだけでマニアと言われるほど深くはないのでちょっと申し訳ないような気もします。まあ、縁があったということでお許し下さい。


 
by studio7 (2008-12-22 23:35) 

studio7

>マック&シュンカナ様

 いや〜、マックさんは色んな意味でスーツアクターですから! …ホントに色んな意味で(笑)

 地元のイベントでもずいぶん経験なさっているようですし、某月某日某所において某星人の姿で受け身の練習をしているマックさんの姿を私は見逃しませんでした。「この人は、プロだ」と思いましたね〜。

by studio7 (2008-12-22 23:43) 

studio7

>清水様

 このネタは、特撮系の「新しいお友だち」が出来ると真っ先に自慢するネタです。
 …ってか、そういうお友だちでないと、全くうらやましがってくれないので、自慢する甲斐が無かったりします。

 10年以上経ってやっと自慢できてとても嬉しいです。皆さん、ありがとう!(まだ一年を締めくくるには早いわっ!)

by studio7 (2008-12-22 23:49) 

studio7

>初代ウルトラおやじ様

 買うとすぐに遊んだり聴いたりしないと気が済まない私です。我慢という点で、「待て」で言うことをきく犬に劣ります。
 …でも、せっかくだからCD、聴いてあげてください(^^)
 
 クラシックはよく知らないんですが、オーケストラの音は大好きです。
 その大好きな音で大好きなウルトラマンやゴジラやヤマトを演奏されると、もう感動です。


by studio7 (2008-12-22 23:54) 

マック&シュンカナ

そうそう、そういえば真っ先に自慢された記憶がよみがえってきたマックです(笑)

いずれにしても「受け身」の練習・・・
って、言ってもただ転がっていただけですよ。
まともに受け身なんてできないですから・・・・
とりあえず痛くないか試しただけです。
体が硬いし、身軽でないのですぐ怪我しそうですから(笑)(笑)


by マック&シュンカナ (2008-12-23 23:41) 

studio7

>マック&シュンカナ様

 そうそう、自慢しただけでなく、「普通、(ゴジラなどに)入りたいと思いますよねェ?」と念押しを記憶がよみがえってきました(笑) 同意を得られてとても嬉しかったです。

 そういえば、マック家には自転車ごとガケから落ちるという強烈な技をこなすもの凄いスタント・ウーマンがいましたね…。それは凄過ぎますが、4歳にして自転車の後輪をロックさせて止まる姿を見ただけで「この子は凄い!」と感心しました。…でも、ホントに怪我しないでね〜、と“すたじおせぶんさん”が言っていたとお伝えください。


by studio7 (2008-12-24 22:47) 

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